経営者として,会社で労働トラブルが発生した場合のリスクを具体的に考えたことがある人は,意外と少ないかもしれません。

「会社で起きたトラブルは会社限りで責任を負えばよい」

そんな勘違いをしていると,危険です!

なぜなら,労働トラブルが発生した場合,経営者個人も責任を追及され,多額の損害金の支払いを命じられるおそれがあるからです。

では,経営者個人の責任が追及されるのは,一体どのような場合でしょうか。

法人としての株式会社

株式会社は,「法人」であり,自然人(いわゆるヒト)と同じように権利・義務の主体としての地位を有しています。

したがって,会社の行為によって損害が発生した場合,原則として会社自身が損害賠償義務を負うことになります。

ただし,会社が責任を負うからといって,経営者個人が責任を負わなくてもよいということにはなりません。

会社法は,会社が社会において重要な地位を占めていることや,その会社の活動は取締役等の職務執行に依拠していることから,より第三者の保護を図るため,取締役等にも責任が生じる場合を定めています。

労働法規違反についての取締役等の責任

会社の取締役や監査役,執行役などの役員等がその職務を行うにつき悪意または重大な過失があったときは,これにより第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項)。

ここでいう「悪意」とは,損害発生の原因となる事実を知っていたことを指します。

そして,取締役等は会社に対して善管注意義務(民法644条)ないし忠実義務(会社法355条)を負うとされていますが,その中には,会社に労働法規上の義務を遵守させる任務も含まれるとされています。

したがって,会社に労働法規上の義務違反があり,それについて取締役等の悪意ないし重過失の任務懈怠が認められる場合には,取締役等の個人が,従業員に対して損害賠償責任を負うことになります。

例えば,従業員が4ヶ月にわたり月80時間を超える時間外労働の結果,急性心不全により死亡した事件について,取締役に対し,過重労働を抑制する措置を採る義務があるにもかかわらずこれを怠ったものとして,会社と連帯して慰謝料2300万円の支払が命じられています(大阪高判平成23年5月25日)。

同様に,従業員が過重労働により脳梗塞を発症し右上下肢麻痺等の後遺障害を負った事件について,会社の代表取締役に対し,会社と連帯して慰謝料として2000万円の支払が命じられた例もあります(神戸地裁尼崎支部平成20年7月29日)。

不安があれば,すぐ弁護士に相談を

このように,会社に労働法規上の義務違反がある場合,経営者個人がしかるべき措置を講じなければ,責任を追及されるおそれがあります。

日頃の労務管理をしっかり行うとともに,労働法上不安な点や疑問などがある場合には,労務に強い弁護士に相談しておくことをおすすめします。

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